家づくりの打合せでは、「明るいリビングがほしい」「庭とつながる暮らしがしたい」「外からの視線は気になる」といった希望を伺います。
どれも大切な要望ですが、そのまま部屋の配置に置き換えるだけでは、必ずしも心地よい住まいになるとは限りません。
例えば、大きな窓を設ければ明るく開放的になる一方で、道路から室内が見えやすくなることもあります。
庭をつくっても、周囲の視線が気になれば、日常的には使いにくい場所になってしまうかもしれません。
大切なのは、希望する部屋や設備を並べる前に、その場所で、どのような暮らしができるのかを考えることだと思っています。
今回は、愛知県名古屋市で設計した注文住宅「HOUSE NK(おおやねのいえ)」を例に、庭や光、視線の関係から間取りを考えた過程をご紹介します。
南西角地の魅力と、同時に生まれる難しさ
HOUSE NKの敷地は、南と西の二方向が道路に面する角地です。
向かい側に視界の抜けがあり、光や開放感を取り込みやすい条件でした。
一方で、二つの道路に面するということは、室内や庭が外から見られる方向も増えるということです。
明るく、外とつながる住まいにしたい。
でも、家族が過ごす場所は落ち着いた空間にしたい。
さらに、必要な居住空間と2台分の駐車スペースを確保しながら、街角に建物や塀が迫りすぎないようにしたい。
こうした条件を、それぞれ別の問題として考えるのではなく、一つの建築として解いていく必要がありました。
庭の取り方を変えると、間取りも変わる
設計の考え方を整理するために、二つのプランを比較してみます。
一つは、建物と南側の庭を中心に構成する、比較的オーソドックスなプラン。
もう一つは、建物の内側に中庭を取り込み、外部空間との関係を組み直したプランです。
どちらも、家族が過ごす部屋や必要な機能を確保するという点では共通しています。
しかし、庭の位置が変わると、窓の向きや光の入り方、室内からの視線の抜け、家族が過ごす場所の関係まで変わってきます。
南側に広く庭を取る方法だけが、開放的な住まいの正解ではありません。
内側に外部空間を設けることで、道路からの視線を和らげながら、室内に光と広がりを取り込むこともできます。
庭を余った場所につくるのではなく、庭のあり方から住まい全体を考える。
HOUSE NKでは、そうした考え方が間取りを組み立てる一つの軸になりました。
道路と室内の間に、いくつもの境界をつくる
プライバシーを守る方法として、道路との間に高い塀を設けたり、窓を小さくしたりすることが考えられます。
もちろん、それが適切な場合もあります。
ただ、外からの視線を遮ることだけを考えると、せっかくの角地の開放感まで失われてしまうかもしれません。
HOUSE NKでは、道路と室内を一枚の壁で分けるのではなく、その間にいくつもの要素を重ねています。
道路から少し距離を取った建物の配置。
街側に残す余白。
植栽や塀の位置。
庭や軒下といった、外と内の中間にある場所。
そして、窓の位置や高さ。
こうした関係を一つずつ調整することで、光や外への広がりを取り込みながら、室内が直接見えにくい構成を考えました。
この考え方を「厚みのある境界」と表現しました。
境界は、必ずしも壁や塀の一本の線で決まるものではありません。
その間にある余白や距離も、住まいの心地よさをつくる大切な要素だと思っています。
4つの外部空間を、それぞれ異なる役割に
HOUSE NKでは、敷地の外部空間を大きく4つの役割に整理しています。
街側の余白
建物を道路の角まで押し出しすぎず、空や植栽、屋根の輪郭が感じられる余地を残しています。
住む人だけでなく、街からの見え方も考えた配置です。
内側の中庭
道路からの視線を和らげながら、室内に光と視覚的な広がりをもたらす場所です。
外部に対して大きく開くだけでなく、内側に向かって開くことで、落ち着いて過ごせる空間をつくっています。
暮らしに開く庭
室内からデッキへ、気軽に出られる庭です。
庭を眺めるだけでなく、日常の居場所の延長として使える関係を考えました。
駐車スペース
駐車スペースも、単に車を置くためだけの場所ではありません。
道路と住まいの間に距離をつくり、視線や採光を調整する外部空間の一部として捉えています。
これらは独立した4つの庭というわけではなく、それぞれ異なる役割を持つ外部空間です。
敷地全体の配置から考えることで、個々の場所が互いに関係し合う住まいを目指しました。
大きな屋根は、外観のためだけではない
HOUSE NKの外観で印象的なのは、建物全体を包む大きな屋根です。
この屋根は、単に外観のデザインを特徴づけるためだけのものではありません。
深い軒は、日差しや雨を和らげながら、室内と屋外の間に過ごせる場所をつくります。
軒の下から外を眺める場所。
室内からデッキへ出る場所。
中庭に視線が抜ける場所。
それぞれの異なる居場所を、一枚の大きな屋根の輪郭でまとめています。
外観と間取り、庭と外構を別々に考えるのではなく、一つの住まいとして整えること。
それが、HOUSE NKの大きな設計テーマでした。
完成した住まいに生まれた居場所
完成後の写真を見ると、設計で考えていた関係が、実際の空間として現れていることが分かります。
街角から見える大屋根の輪郭。
深い軒の下にできる、外を眺める場所。
室内から気軽に出られるデッキ。
そして、キッチンやダイニングから中庭へ抜ける視線。
どれも、間取り図の中で部屋を配置しただけでは生まれない場所です。
光を入れることと、視線を遮ること。
庭をつくることと、日常的に使いやすくすること。
街に開くことと、家族のプライバシーを守ること。
一見すると相反する条件も、設計の組み立て方によって両立できる可能性があります。
要望をそのまま形にする、その先へ
住宅設計では、お客様が最初から完成した間取りのイメージを持っているとは限りません。
「こんな雰囲気が好き」「こういう暮らしができたら」といった、まだ輪郭のはっきりしない希望から始まることもあります。
私たちは、そうした言葉の背景にある暮らし方を読み解き、敷地の条件と重ね合わせながら、住まいの可能性を考えていきます。
ときには、最初に想像していた間取りとは違う提案になるかもしれません。
ただし、自由な発想だけで終わるのではなく、構造や予算、施工性まで踏まえて実現できる形に整えることも大切です。
暮らしを聞き、言葉になっていない希望を読み、予想の先を描き、実現へ整える。
HOUSE NKは、そうした設計の考え方を形にした住宅の一つです。
家づくりを、間取りが決まる前から考える
YA Design.stdでは、奈良県生駒市と愛知県名古屋市を拠点に、注文住宅やマンションリノベーションの設計を行っています。
SNSで見つけた理想の住まい。希望する間取り。土地の条件や予算のこと。
まだ整理できていないことがあっても、そこから一緒に考えていければと思っています。
初回相談は無料です。
